心のケア支援スタッフ養成講座に参加してくれた仲間が、高齢者施設で体験したことをレポートしてくれました。
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あつ子さん(仮名)は78歳(当時)の女性、ちょっと変わったおばあちゃんです。
普段は落ち着きなくソワソワしているのですが、何かに集中すると声掛けにも反応せず、姿勢保持もできなくなり椅子から落ちそうになります。過集中の状態です。歩き方がぎこちなく、何度も転んで骨折しているのですが、突然席を立ち猛ダッシュして、離れた席の利用者さんの裏返ったポケットを直しにいきます。担当ケアマネジャーもほかの職員も認知症の症状と言いますが、果たしてそうでしょうか?
あつ子さんの塗り絵はとても独特です。牛の可愛らしいキャラクターが、牛とは思えないほど鮮やかな配色で塗られていました。「すごくきれいな牛ですね」と声掛けすると「牛じゃない。漫画だよ」と言われました。これも牛じゃないですか?と尋ねると「牛乳石鹸赤箱に描いてあるのが牛、これは牛じゃなくて漫画!」と言われてしまいました。なるほど!!とっても納得です。
娘さん二人と家族旅行に行った先で転んで骨折、ギプス固定で帰宅されました。それでも旅行は楽しかったようで、職員に旅行の話をされるのですが「何を言っているのかわからない」と楽しさを共感してもらえずご不満の様子。「旅行は楽しかったですか?」と伺うと「大きい背中に小さいのがあって、小さい背中に大きいのがあって、これが面白くて・・・」とのこと。確かに「何のこっちゃ?」です。でも、ゆっくり話を聞いてみると「宿泊先のホテルの喫茶店で、背が高くて太ったウェイトレスと小柄で痩せたウェイトレスが同じ制服を着ていた。同じエプロンをしていたけど、太ったほうは大きな背中に小さい蝶々結び、痩せたほうは小さい背中に大きな蝶々結びが付いていて、大きいのに小さくて、小さいのに大きいのがすごくおもしろかった」とのことでした。楽しさの切り取り方や、文法通りに並んでいない日本語に戸惑うことはあっても、人に共感してもらいたい気持ちは同じだと痛感しました。
後日、ケアマネにあつ子さんは認知症ではなく、何らかの発達障害があるのではと伝えいつ頃から落ち着きがない等の諸症状があったのかを、さりげなく娘さんに聞いていただいたところ(発達障害の疑いがあるとは言わず)「私たちが物心ついたころからこんな感じだった。おばあさんからも子供の頃から落ち着きがない等よく怒られていた」とのことです。
デイサービスの職員も「あつ子さんは認知症ではない」という共通認識のもと、あつ子さんの価値基準を認めていくという方向性に落ち着きました。少しでも生きやすくなるといいな~と思っています。